<清水 氏のコメント>
今回は、アコースティック・ベースの激鳴りを初体験しましたのでご報告させていただきます。
前回やっていただいたVektor・サイレント・ベースの激鳴りがあまりにも素晴らしかったので、アコースティック・ベースにもぜひ『激鳴り』をと 思っていたのですが、このたびついに実現しました。
結果は今回も予想を上回るものでした。
[tip]まず、弦高を変えていないにもかかわらずテンションが柔らかくなってとても弾きやすくなったのです。以前は何日か続けて演奏すると指先に痛みを感じていたのが、ウソのように無くなってしまいました。それに加えて驚くほどのサスティーン。アンプにプラグインもせずに弾いているというのにアンプのヴォリュームを上げたかのような豊かな音量。そして明瞭な音程感。これらの要素が一気に向上して、以前とは比較にならないほどなのです。
今回、僕のTSC訪問に合わせてこの激鳴り作業をやっていただいたうえに、通常ならば立ち合うことはできない作業過程を、激鳴り完了までつぶさに拝見する便宜をはかっていただきました。いままでは完成前と完成後の楽器の状態を知るにとどまっていましたが、その変化していく過程に立ち合えたことは僕にとって新たな発見がありました。
アコースティックの場合、弦を1本ずつ激鳴りにしていくのだそうです。最初に4弦、そして1,2,3弦と手際良く進んでいきました。当然この過程でひとつの楽器の中に鳴っている弦と鳴っていない弦が一時的に混在するので、それらを比較することが可能なわけです。
するとまず激鳴りにした弦が遠鳴りしていることがわかりました。
また、演奏者の位置で聴くかぎり激鳴りを施していない弦のほうが低音を多く含んでいるように感じたのですが、実際のところは楽器から数メートル離れてしまうとまるっきり低音も音程感も聴き取れなくなってしまうのです。
かたや激鳴りにしたほうの弦は、近くで聴くと音がすっきりしているためかむしろ物足りなく感じたのですが、これが離れて聴いてみたら、たいへん低音が豊かで音量も音程感もくらべものにならないぐらい良く鳴っているんです。
取り付けてあったアンダーウッド形のピエゾ・ピックアップを使いベースアンプから音を出してみると、いままでなら考えられないくらいにまでヴォリュームを上げることができるのです。ファンダメンタルが増えてとても聞き取りやすい音質になったためなのでしょうか。これなら大音量のアンサンブルにも十分に対応できると思うと大満足です。
まさに激鳴りは弦楽器においての万能薬だと確信しました。
今回の訪問中に起ったもうひとつのトピックがあります。Low-F#の調弦は実用に耐えうるか?という実験をしたのです。僕はかねてから6弦ベースのHi-Cに必要性を感じておらず、5弦あれば十分だと思っていました。理由は単に『ベースは音が低い楽器、だから低い音を増やしたほうがもっと使いでがある』と思っていたからです。それならば6弦ベースにさらに低い弦を張ったらどうなるのか?これだとピアノよりも低い音域になるので、低すぎて聴きとれないのでは?とか、激鳴りにはできないのでは?などいろいろ心配もありました。それがいとも簡単に激鳴っていてビックリ。また再生機器も普通のベースアンプで十分、それどころかこの日の実験では60Wクラスのギターアンプでもバッチリ再生できました。Low-F#の音が再生機器を選ぶという通説を耳にしたことがありますが、激鳴りベースにこの通説は全くあてはまりませんでしたね。
まだ今の段階では弦のゲージなどのいろいろなことをTSCにおいて実験中ですので詳しいことはいつかレポートできると思いますが、かなり実用性のある高いクオリティーで仕上がると予想しています。この モディファイをもとに僕のシグネイチャー・ベースの構想も進行中です。どうかご期待下さい。
2004 9/1[/tip]
モディファイ後のウッドベースを入念に試奏する清水氏(TSCスタジオにて)